この事業の主たる目的は、日本の子どもたちがシンガポールの子どもたちと創作活動を通じて交流し、自分たちが今暮らしている世界や環境とは別の世界や環境が沢山広がっていることを、肌で感じてもらうこと、言い換えれば、文化とは何かを体験する事業です。
3月11日の大震災を受け、当初予定されていた3月下旬のシンガポールへの旅は5月下旬へと延期せざるをえませんでした。それを決断した際に私たちが最も懸念したことは、子どもたちがそれをどう捉えるか、ということでした。延期を発表したときの子どもたちの落胆は大きく、中には、延期は「大人の都合であって、私たちは予定通りにシンガポールに行けた」と考える子どももいたようです。「大人の都合」が気に入らなかったのか、延期を告げた後のワークショップでは口もきこうとしなかった子もいました。私たちが旅を共にした子どもたちは、特に「大人の都合」に振り回されてきた子どもたちであり、それに対する嫌悪が心の中にあるのだと言うことを痛感しました。
羽田からシンガポールへ飛び発つとその表情は一転、子どもたちは旅行を満喫したようでしたが、今回の延期に対する子どもたちの反応は、3回目となるこの事業を行う意味や行い方について、改めて考えさせられる出来事となりました。私たちがこの事業で子どもたちに提供できるのは、「新しい体験」や「人との出会い」などであり、目に見えるものではありません。それだけに、「子どもたちのためになるはず」という先入観や「大人の都合」を振り回すのは危険であり、常に子どもたちの目線を忘れないことが大切なのだと思います。
今回の旅のプログラムは1回目、2回目にも増して充実し、シンガポールの子どもたちとの交流も深くなったように感じています。その一つは、NPOリトル・クリエイターズがシンガポールのカウンターパートの協力を得て、1月にシンガポールと日本の子どもたちによるチャリティーコンサート『チャイルド・エイド・アジア2011』を開催したことにあります。今回の旅に参加した石神井学園の子どもたちのほとんどが、昨年8月からコンサートに出演を目指してワークショップに参加していたので、私たちスタッフは約1年かけて関係を築くことができました。また、コンサートで共演したシンガポールの子どもたちが、シンガポールで参加児童を暖かく迎えてくれ、友情を深めることができたことも、交流をさらに意義深いものにしてくれました。
二つ目には、カウンターパートであるシンガポールのリトル・アーツ・アカデミーがより一層この旅の意義を理解し、プログラムへの提案がさらに具体的かつ積極的になったことです。ヒップホップのような、常に人気のあるプログラムは残し、京劇のワークショップや現地小学校との交流など教育的で娯楽要素も高いプログラムを提案してくれました。また、彼らのコーディネイトにより日本語を勉強している大学生や現地在住の日本人の方がワークショップのボランティアとして協力してくださり、両国の子どもたちは言葉の壁を超えて、スムーズにコミュニケーションを行うことができました。これは日本側だけで旅の計画を立てていたのでは成立し得なかったことで、シンガポール側の協力に感謝の気持ちでいっぱいです。
東日本大震災の後、悲しいことに孤児が増えています。今後は石神井学園の子どもたちだけではなく、色々な施設や家庭にいる寂しい思いをしている子どもたちにも同じような企画を提供できればと思っています。3年間で培ったノウハウと子どもたちとの絆を、引き続き生かせるように模索していきたいと思います。今回も、国際交流基金、在星日本大使館をはじめ、多くの方々にご助力をいただきました。ご尽力いただいた皆さまに心より御礼申し上げるとともに、今後とも、この事業の開催にご理解とご協力を賜われれば幸甚に存じます。
シンガポールからのメッセージ
◎日下 祐子(共催 在シンガポール日本国大使館)
東日本大震災発生を受けて一度延期されましたが、今年もこうしてシンガポールと日本の子どもたちの交流企画が実現できたことは喜ばしく、両国の関係各者及びボランティアの方々のご尽力に深く感謝申し上げます。
初対面同士の子どもたちがダンスや料理、紙芝居作成という共同作業を通じてすぐに打ち解けあう様子、互いの意見を出し合い、協力しあって作品を完成させていく様子、さらには両国の伝統的な遊びを教え合い、笑顔で遊ぶ様子に、『心と心の交流』について、子どもたちから改めて教えられた思いが致します。子どもたちがこの体験を忘れず、将来、世界で活躍する人に成長され、両国の良好な関係の架け橋になってくれることを願います。
◎アデリーナ・オン(共催 ビジネスタイムス・バディング・アーティストファンド)(Centre Manager, The Little Arts Academy)
シンガポールからの参加者は29人となり、過去最高の参加者数を得ました。日本語の授業をしてきたことで、子どもたちが心を抵抗なく繋がる事ができたのだと嬉しく思っています。シンガポールの子どもたちが自然に新しい日本の友だちを作り、料理のワークショップがあったキッチンを連れ回したり、絵画のワークショップで発表をするときに助け合ったりーーーそんな小さなことをみるにつけ、3年前の最初の交流プログラムから私たちがどれほど企画を成長させたか、感無量でした。
どう話せばご理解が頂けるのでしょうか。そしてどうすればこの素晴らしい、そして意義深い企画にご支援をいただいて続けていくことができるのでしょうか。どうすれば子どもたちの生活を豊かにし続けることができるのでしょうか。子どもたちがお互いに手をさしのべているのを見ると、「独りぼっちではない」と知ることがいかに重要か考えさせられるのです。
◎CHIJ Kellock校 校長リム・タンと教師一同
2011年5月20日、私たちCHIJケロック校は石神井学園の子どもたちを迎える機会にめぐまれました。私たちの児童にとっても教師にとっても、日本からの子どもたちと経験や文化を分かち合う素晴らしいチャンスになりました。お互いの言語を話さずとも、子どもたちが心を通わせ会うのを見て感動を覚えました。実際にこれは大変意義のあるプログラムだったと思いますし、今後もこのような機会に恵まれればと思っています。
リム・タンと教師一同